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”空の救急車”と“空の消防士”

山でケガ人を自力搬送するのを止めませんか。

 北海道大学の学生が、スキー滑走中に木に衝突、膝下の骨を骨折した。仲間はスキーでそりを作り、登山口まで運ぼうとしたが、雪が深く、日没が迫り、自力搬送は無理と判断、警察に通報した。消防の北海道防災航空隊ヘリが出動することになり、骨折した学生は病院へ搬送された。

 北大は、学生が警察に通報し、消防に救助されたので“遭難”と判定。クラブ活動は数ヶ月間、停止の処分を受けた。OBへの報告会で年配のOBがこう言った。

「なぜ、自分たちだけで搬送しなかったのか」

現役部員たちは警察に通報し、消防に救助されたことをOBに“叱られた”と受け止めた。

 北海道の山岳遭難救助体制は、30年前と大きく変わった。いちばん変わったのは、ホイスト装置でケガ人を吊り上げることができる救助ヘリを活用したエアーレスキューが普及したことだ。北海道の消防の「北海道防災航空隊」、警察の「北海道警察航空隊」、札幌市消防局の「札幌市消防局航空隊」、8機のヘリが山岳遭難救助活動を行うようになったのだ。このほか、札幌、旭川、函館、釧路の4ヶ所にドクターヘリが配備され、運用されている。

 あなたが交通事故の当事者になったら、どこへ通報するだろうか。まずは警察、ケガ人がいれば消防が常識だ。警察と消防は、連係する。山の事故でも同じだ。ケガ人がいれば、ケガが重傷であればあるほど、消防への通報が優先されるべきだ。

 消防のヘリコプターは、「空の救急車」であり、隊員は「空の消防士」だ。救急救命の機器は救急車と同じ。「空の消防士」は、救急救命の経験豊富な救助隊員で、救急救命士の隊員もいる。道警ヘリの隊員も高度救急救命の訓練を受けている。消防の北海道防災航空隊は、全道から優秀な消防士を集め、出動は全道を対象としている。山岳遭難では、ケガ人の苦痛軽減、後遺症を残さないことを最優先に救助すべきだ。“苦痛を我慢しろ”など、時代錯誤も甚だしい。

 自力搬送すれば“自己責任”を果たし、“達成感”が得られるだろう。だから学生、社会人、山岳ガイドは、自力搬送にこだわり、ソリの自作、搬送訓練に力を入れる。

 確かに天候が悪ければ、ヘリは飛べない。しかし、救助ヘリが普及した今、自力搬送訓練の重要性は低くなった。私は、自力搬送にこだわることを止めるべきだと思う。北大は、警察、消防に通報したら遭難という理由で、学生のクラブ活動停止の処分を行うべきではない。学生の行動を総合的に判断すべきだ。警察に通報し、道防災航空隊が救助してもらった学生の判断は、正しかったと思う。

 10月31日(土)、第28回講演会「雪崩から身を守るために」が北大で開催される。北海道防災航空隊の講演を聞き、陸上競技場で行われる“エアーレスキュー実演”を見て欲しい。彼らはまちがいなく、日本で最高峰の消防の防災航空隊だ。

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