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命を救ったスキーガイドの笑顔

命を救ったスキーガイドの笑顔
 2月28日長野県白馬栂池、スノーボーダー(44歳)が雪崩に完全埋没して3時間が経とうとしていた。偶然その雪崩を目撃したスキーガイドの高田健史(たかだけんじ、北海道)と双樹智道(そうじゅともみち、北海道)たちは、プローブを手にしてデブリの山と格闘していた。スノーボーダは雪崩トランシーバーを身につけていたが、出発前のチェックを怠り、電源入れ忘れを見逃していたのだ。高田たちが行っていたのは、マニュエル・ゲンシュワインから学んだスラロームプロービングという捜索方法だった。
 佐々木大輔(国際山岳ガイド、北海道)が「プローブの捜索は、あと15分。発見できなかったら下山する」と指示を出した。日が暮れる前に下山をしなければならない。発見できないまま、下山すれば、スノーボーダーは死ぬ。救助を行う者の命は、要救助者の命より優先されるのだ。
 プローブを握り続けている左手首に痛みが走るが、さらにスピードを上げスラロームプロービングを続けた。「カチン」、何か堅い物に高田のプローブが当たった。「ヒット!」、しかし、この感触は木の枝かもしれない。それまでいったい何カ所の穴を掘ったことか。プロービングより、穴を掘るシャベリングの方が体力が要る。高田と双樹に「また外れか?」という思いがよぎる。佐々木大輔が、猛烈な勢いで雪を掘った。50㌢掘ると体の一部が見えた。
 こうしてスノーボーダーは埋没から3時間後に救出され、長野県警のヘリで病院へ搬送された。
 雪崩事故から7日後。高田と双樹は、10日間に及ぶスキーガイドⅡの検定を終えた。2人が谷川岳と那須へ雪崩講習会の講師として行くと知ったスノーボーダーが、日本酒を持たせてくれた。「向こうで飲んでくれ」。
 命を救った高田と双樹が、私たちにその日本酒を振る舞ってくれた。「高田さん、左手の包帯はどうしたの?」「プロービングをやり過ぎて痛めてしまいました」。答える高田に笑顔が溢れていた。無口な双樹も笑顔だ。
 スノーボーダーがお礼にくれた日本酒は、とても旨かった。

 

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